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ブログ

【短編小説】そば寿司

賢者屋キャストTOKYO (キャリア/教育)

11か月前

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    44

こんにちは!賢者屋キャストのようたろうです!

先日山口に行って一人旅をしてきました!

大好きな山口を舞台にお話を書いてみました。

お時間のある方はぜひ読んでください!

 

 

そば寿司

 

 

「あの日YCAM*で見た映画、覚えてる?」

彼女はもろい言葉を、一文字一文字僕の前に置いて並べてみせた。

「大学一年の夏だったか?」

「馬鹿ね、その時はまだ出会ってないじゃない、私達。」

「そうか、なら僕が大学二年、君が三年の夏だな。」

「そう、夏の終わりよ。ちょうど今頃の季節だわ。」

 

 

何十年も前の話になるが、僕と彼女はうだるような暑さの中、山口県山口市にいた。

その時の彼女は今よりもっとあどけなく、髪も黒かった。

世の誰もがスマホを片手に持っていた時代だ。網膜投影技術が発展した今ではスマホが懐かしい。

あの板のせいで爺婆の誰もが腱鞘炎になる時代が来るとは誰も想像つくまい。

あの太陽の下、五重塔の前で目を閉じる彼女に僕は惚れていた。

そのあと二人で食べたそば寿司の味も鮮明に思い出せる。

そば寿司なんてあれ以来食ってない。

あの後僕はすぐドイツに飛んでしまったし、帰ってきたら子供が産まれて、気づけばこんな歳になってしまった。

思い出をたどれば、いつでもあの日の彼女に会える。

ずっと歳をとらない、あどけない彼女が賽銭を放る。

人間の想像力を超えたAI技術がクリエイティブの最先端に立つ時代に、個人の過去だけは彼らに映せない宝物になった。

僕達は個人の思い出を記憶の中だけに留めておける最後の世代だ。

湯田温泉の足湯に足を入れた時、彼女は「少し熱いね」と言った。

僕は「そうだね」と、ただそれだけ言った。

一度、彼女の前で湯田温泉の足湯を再現してやったことがある。

あの時は3Dプロジェクターがまだ高くて、僕の給料の2ヶ月分もしたんだ。

目の前の空間に映し出された青色がかったバーチャルの足湯に足を入れた彼女は「少し熱いね」とだけ言った。

 

 

 

「あの映画は、だいぶ怖かったわね。」

彼女は目を細める。言葉たちは白い壁に跳ね返り、あの日の映画のようにパチリと消えた。

「昨日の事のように話すね。」

「昨日の事のように覚えてるわ。」

「なら、本当の昨日のことは覚えているかい?」

「あら、昨日のことは昨日忘れたばかりよ。」

 

 

その日見た映画は、「野火」という映画だった。

わけもわからずYCAMを訪れた私たちは、時間がちょうどいいからと劇場に入り映画を見た。

鮮明でグロテスクな映像と大音量の音楽の中で僕たちは驚き震えた。

映画が終わると恐怖のあまり君と手を握っていた。冷たいひんやりとした手だった。

YCAMを出た私たちは隣のコーヒー屋に入った。

暖かいコーヒーを頼み、二人でしばらく話をしていた。

映画の感想から始まり、互いの死生観まで語り明かした。

あの頃から彼女は没頭すると周りが見えなくなるタイプで、僕はそれがいつも心配だった。

僕がドイツに行っていた時、彼女からの連絡が一週間途絶えたことがあった。

すると急に電話がかかってきて、受話器の向こうの彼女は泣いていた。

いつだって誰かに期待しすぎる彼女は部下とよくぶつかる。プロジェクトも佳境に入り、そんな部下の態度を見て彼女の糸がプツンと切れたらしい。

叱ってしまった自分を責めて泣いていた。連日徹夜の疲れもあってか、僕の話を聞く前に彼女は寝てしまった。

直接背中を撫でてやれない代わりに、僕は一件のメッセージを送った。

Stupid is as stupid does.

馬鹿をするものが馬鹿だ。

大好きな映画のセリフだ。彼女に僕の意図が伝わったか分からないが、次の月彼女は会社を辞めた。

 

 

 

「あの日飲んだコーヒー、また飲みたいわ」

諦めじみた彼女の言葉は、行き場を失い透明な空間で少し焦る。

僕は彼女の胸元から伸びる管を見ながら「そうだね」とただそれだけ言った。

 

 

 

 

それが彼女との最後の会話だった。

その日の夜に彼女は旅立った。

葬式も終わり、上司の気遣いで余分に二日ほどの休みをもらった。

僕は身一つで新幹線に乗り山口県に向かった。

彼女と見た五重塔を見て、彼女と食べたそば寿司を食い、彼女と入った湯田温泉の足湯に入り、彼女と行ったYCAMに行き、彼女と飲んだコーヒーを飲んだ。

コーヒーの湯気に映る思い出の全てが懐かしくなり、僕は微笑みながら泣いた。

彼女と共有した景色も、味も、暑さも、恐怖も、思い出の何もかもを包み込む風は少し涼しかった。

君にもっとありがとうと言えばよかった。

もっとごめんと言えばよかった。特に僕はごめんが苦手だったからな。

もっと、もっと愛しているとなぜ言えなかったのだろう。

あの時言えなかった言葉たちの一文字一文字が熱くなって腹のなかで回る。

その時ふと、僕の眼前に彼女が映った。

 

 

「この映像が観れたってことは、やっぱり私が先に死んだのね。

そして、あなたはやっぱりここにきてくれたのね。

技術の進歩って素敵ね。

網膜投影だから、本当にここにいるみたいでしょう?懐かしいわね。

私からの最後のメッセージです。

あなた。いつもいつもありがとう。

心から、愛しています。

ちょっと早いけど、私は先に行って待ってるね。

じゃあ、また。」

 

僕は涙をぬぐいながら「ああ、うん。」と、ただそれだけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな死に方がよかったなあ」と言ったあと、彼女は線路に落ちていった。

電車のクラクションは虚しく渋谷駅のホームに響いた。

河内陽太郎

*YCAM:ワイカム、山口県山口市にある情報芸術センター。

引用:Stupid is as stupid does./映画「フォレスト・ガンプ」より

 

 

 

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